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シリーズ 統 合 報 告 の 視 点④

自発的開示か強制的開示か──。 日本企業に資する情報開示を考察

これまで3 回にわたって、統合報告が求められる背景や有用性、経済的帰結、統合報告が企業組織に与える影響などについて検討してきた。最終回となる今回は、統合報告の今後の重要な論点になる情報開示について考察する。

比較可能性が日本の課題

統合報告の将来を考えるときに重要な論点は、自発的開示と強制的開示のいずれで統合報告を行うのかである。現在、投資家が考えている日本企業の統合報告の課題は、企業間あるいは時系列での比較可能性が必ずしも高くなく、企業価値評価に反映するのが容易ではない点である。

これは、日本では自発的開示として統合報告が行われているため、IIRC(国際統合報告評議会)のフレームワークは存在するものの、開示する情報の内容が企業に委ねられていることに起因する。このため企業は最適な水準で統合報告を行うことができ、開示に積極的になる。

つまり、統合報告は開示する情報の内容や開示方法、開示頻度などを自由に選択できるという点で企業にとって好ましいが、投資家の立場からは比較可能性が維持されていないという課題がある。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授野間 幹晴先生

一橋大学大学院
国際企業戦略研究科
准教授
野間 幹晴

一橋大学商学部卒業。同商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)取得。2010年より2011年まで、コロンビア大学フルブライト研究員。バンダイナムコホールディングス社外取締役、経済産業省「企業報告ラボ」座長。

英国とEUは強制開示

ここで、非財務情報の開示を推進する政策を展開している英国とEU(欧州連合)のプラクティスをとりあげたい。英国ではFRC(財務報告協議会)がスチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードを管轄している。FRCは企業と投資家の対話を促進することや議決権行使の有用性を高めるために、法定開示が要求されるアニュアル・レポートの改革を行っている。統合報告との関連で重要な点は、2013年10月の会社法改正に伴い、上場企業に対して「戦略報告書(ストラテジック・レポート)」の作成を義務付けた点である。

FRCは、戦略報告書がフェアであると同時に、公平、理解可能であるべきだと規範的に論じ、将来の見通しや戦略、ビジネスモデル、コーポレートガバナンスなどに関する情報開示を要求している。その特徴は、企業の持続的成長に向けての取り組みを報告するIIRCの統合報告書の定義と類似している点である。

またEUでは2014年11月に「非財務情報開示指令」が公表され、非財務情報の開示が強化されている。具体的には、環境や社会、従業員、人権尊重、腐敗防止、取締役会の多様性に関する方針とその目的について情報開示を要請している。この指令を受けて、2016年12月までに各国で法制化され、2017年から企業のアニュアル・レポートへの適用が開始される。

英国とEUのプラクティスの共通点は、非財務情報を強制開示することで投資家の企業価値評価に結びつきやすいようにしている点である。ただし、非財務情報あるいは統合報告を自発的開示として企業に委ねた場合よりも、企業の情報開示に関するコストは高いといえる。

一方、日本では統合報告は自発的開示の枠組みで行われている。企業のコストは低いものの、投資家にとって比較可能性などの課題がある。自発的開示あるいは強制的開示という論点を含め、企業と投資家の対話を促進し、中長期的な企業価値向上に資する情報開示について継続的な議論が望まれる。

統合報告の情報開示における課題