シリーズ 統 合 報 告 の 視 点①
投資家との対話に不可欠な統合報告
企業は中長期ビジョンの公表が必要
IR 情報やCSR 報告書などの経営情報を整理して発信する「統合報告」。国内 ではスチュワードシップ・コードの導入を受け、投資家との対話を促進させるで あろう統合報告の役割に注目が集まる。新連載では、一橋大学大学院国際企 業戦略研究科准教授の野間幹晴先生が、統合報告のあり方について考える。
統合報告(Integrated Reporting)に寄せられる期待と関心が高まっている。それを象徴するのが、2016年の年初に世界最大の機関投資家であるブラックロックのラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)がS&P500に属する企業と欧州の大企業に送付したレターである。和訳は以下の通りだ。
「CEOが長期的な企業価値創造のための戦略的なフレームワークを、株主に対して説明することを我々は求めている。取締役会が戦略的なフレームワークを見直していることをCEOは明確にすべきである。ブラックロックのコーポレートガバナンスに関するチームは、戦略的フレームワークの開示と取締役会による定期的な見直しを期待している。長期計画が開示されなければ、企業は長期投資家を失うリスクにさらされる。長期的な計画について投資家と対話が行われ、理解されれば、四半期決算はショートターミズムを助長するものから、長期的な投資行動を促すものへと変化する。過去、数年間にわたり、どのように長期志向を醸成するかについて議論してきたが、投資家の長期志向を醸成するためには、優良企業のCEOが重要な役割を担っている」
一橋大学大学院
国際企業戦略研究科
准教授
野間 幹晴氏
一橋大学商学部卒業。同商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)取得。2010年より2011年まで、コロンビア大学フルブライト研究員。バンダイナムコホールディングス社外取締役、経済産業省「企業報告ラボ」座長。
投資家がショートターミズムに陥るのを回避し、長期的志向に基づいた投資を行うためには、長期的な企業価値創造のための戦略的なフレームワーク、あるいは計画が開示されることが必要不可欠である。それによって投資家は長期的投資が可能となり、さもなければ投資家はショートターミズムに陥ってしまう、ということを示唆している。統合報告という言葉こそ用いられていないものの、これは統合報告の必要性を説いているといえる。
このレターに呼応するかのように、2016年3月にGE(General Electric Company)が初めてサマリー統合報告書(Integrated Summary Report)を開示した。GEは新産業革命の分野に積極的に投資しており、サマリー統合報告書を発行することで投資家との対話を強化しようとしたと解釈される。周知のように、日本でも2014年2月にスチュワードシップ・コードが導入された。そこでは、機関投資家に対して建設的な目的を持った対話を通じて、企業価値の向上や持続的成長を促すことを求めている。機関投資家がこうした対話を行うためには、企業やその事業環境に対する深い理解が欠かせない。企業が中長期的な企業価値向上、あるいは持続的成長に向けた中長期ビジョンと計画を公表し、投資家と対話を行うことが必要である。そのためには、統合報告が必要不可欠だ。本連載では今後、投資家との対話という視点で統合報告について論じていきたい。